ほろほろ母二人

                             

作詞/山田博士

                             

     「私の、……いやあなたの……娘をお返しします……」

     「な、長い間、ほ、本当に……ありがとうございました、ほ、本当に……」     

    

        一.  戦火(いくさ)が消えてから 私は生まれた

            1946年1月 異国の村で

            折れるほど痩せて 声もあげずに

            私はこの世に 出て来てしまった

               運命(さだめ)はいつだって いたずら好きね

               乳が出ない母は 見知らぬ女(ひと)に

               私を預けて さよならしたのよ

            あれからほろほろ 母二人

 

        二.  日本人の子どもだから 殺してしまえと

            まわりはみんな けしかけたそうよ

            その村にちょうど 赤ん坊なくした

            一人の女(おんな)が 私を見てたと

               運命はいつだって いたずら好きね

               いのち満ちた乳房(ちぶさ) 含ませたなら

               私はがむしゃら むさぼりついたと

            こうしてほろほろ 母二人

 

               運命はいつだって いたずら好きね

               帰国のときが来た 50年ぶりに

               私はまごつき 二人の間で

            まだまだほろほろ 母二人

 

            まだまだほろほろ 母二人

 

 

ひとこと

日本人の女の子を、実の子のように育て上げた中国人の養母と、わが子を託した日本人の母。51年ぶりに再会しました。97年9月のこと。日本が中国に侵略したあの戦争が終わってから半世紀。当時の赤ちゃん、大西芳枝さんを育てた養母の張さんは、「寂しくてこれからどう中国で暮らしていこうか」と涙をぬぐったそうです。考えさせられます。戦争と平和。そして二人の母。