転(ころ)がった赤いヘルメット

−−I’m a Red Signal Man(PART)−−

作詞/山田博士

                             

        (バイクのエンジンをふかす音。少し大きくなって、次第に遠ざかってゆく。どこから

        ともなく「禁じられた遊び」のような静かなギターの曲が流れてくる。そのメロディに重

        なるようにセリフが入る)

        「娘よ、わが娘よ。父さんは残念だ。たったの18年。お前はこの世を駆け抜けた。若

        いときは無茶もいい。間違いなどもするだろう。人は誰でも人生を、そうして越えてゆ

        くものだ。だけど娘よ……」I'm a Red Signal Man I'm a Red Signal Man

 

              (ラップ調)

             お前はあの日ロンゲの黒髪 輪ゴムで束ねてバイクを飛ばす

             沈む夕日を追いかけようと 西へ西へとアクセルふかす

             ペットボトルに若さをつめて いのちも軽いHigh way

             突然お前は宙に舞い 天までそのままGo away

              I'm a Red Signal Man I'm a Red Signal Man

 

        (ギター曲に重なるように。以下同じ)「娘よ、わが娘よ。この世にお前はたったの一

         人。替わりはどこにもいやしない。こんなことでいのちを無くし、なんのために人とし

         て、生まれてきたと言えるのか。父さんは、悔やんでも悔やんでも悔やみきれないつら

         さで体が震えてる。明日からお前の笑い声はけっして聞こえてこない。だけど娘よ……」

 

             お前も憶えていることだろう リュックを背負ったヨチヨチ姿

             あのころみんなは幸せだった お前を宝と思ってた        

             父さん母さん両手につかみ ブランコしながら歩いたじゃないか

             あのころみんなは幸せだった お前を宝と思ってた

             I'm a Red Signal Man I'm a Red Signal Man

 

        「娘よ、わが娘よ。いまさら言っても始まらないが、お前のそばに転がってた赤いヘル  

        メット。もしもお前が顎ヒモつけてまともにかぶっていたならば、『へへへ、やばいこ  

        としちゃったよ』なんて照れ笑いをしながら、ここに立っていたかもしれないじゃない  

        か。だけど娘よ……」                               

 

             お前の亡きがら揺さぶりながら 一度でいから目を開(あ)けてくれと

             何度も名を呼ぶ母さんの顔 天から少しは見えるかい

             逆さになったバイクのタイヤ この世に未練があるように

             グルグル回っていたそうだ グルグル回っていたそうだ

              I'm a Red Signal Man I'm a Red Signal Man

 

        「みなさん、こうして私の娘は天に召されていきました。はずれたヘルメットがただただ

         無念です。生きていればこれから人を愛したこともあったでしょう。素晴らしい日々も

         何度かあったことでしょう。短い人生でした。

          聞くところによれば、交通の「事故死者」は年間1万人とのこと。これはもう戦争と

         言えるのではありませんか。宣戦布告なしの戦争でしょう。毎年毎年1万人。しかも明

         日にでも、あなた自身が体験するかもしれない戦争なんです。いのちを亡くした一人一

         人の数字には、一つ一つの涙が流れています。

          でも本人よりも誰よりも、残された者のこのつらさ。長い、そして重い鎖をひきずり

         ながら、今日から私たちは歩いてゆくことにいたします。だけど娘よ……」

  

             逆さになったバイクのタイヤ この世に未練があるように

             グルグル回っていたそうだ グルグル回っていたそうだ

           (バイクのエンジンをふかす音。少し大きくなって、次第に遠ざかってゆく)

                                                         

                      

ひとこと

先日、自動車免許更新のための講習を受けました。衝撃でした。全国で交通事故の死者が約1万人。毎年この数字は変わっていないのです。車優先社会の醜さ、いろいろ原因はあげられます。でも、ペットボトルを愛用する若者が起こす事故には、それだけではない何かがあると私は思うのです。この歌の主人公はわずか18歳の女性。自動二輪の免許をとってすぐの事故でした。